土佐丸日記


秘密兵器!?土佐丸野球10人目の選手

土佐丸は10人で野球をやっているのか!?
明訓ベンチもラジオのアナウンサーもそうやって騒いでいたみたいだけど、結局はマジックでもなんでもなかった。
ラジオの解説者によるとこうだ。
ショートがセカンドに牽制に入り2塁ランナー殿馬を釘付けにする。ピッチャー犬飼は構わず投げ明訓・山岡に三遊間に打たせる。打ったと同時にレフトがショートに、センターがレフトに、ライトがセンターに、ファーストがライトに、そしてピッチャーがファーストに、移動していた。
あの一瞬の間にそんなことをするなんて、案外うちのチームってすごいのかも。あたしはラジオの解説にうなずきながら、感心してしまった。鮮やかという言葉がピッタリなプレーだわ。
これなら明訓の名物、殿馬くんの秘打にも負けないかもしれない。
次のバッターは4番の土井垣さん。明訓のキャプテンだ。うちのキャプテンは相変わらずキャッチボール投法を続ける。土井垣さんに痛烈な当たりが出た!ボールはレフトに伸びているのに、レフトの丹座先輩ったら何を思ったのかボールを追わずに前進していく。いやーん、これじゃ2塁ランナーの殿馬くんがゆうゆうホームインしてしまう!
しかし、秘打男の殿馬くんは3塁ベースに止まってホームに向かわなかった。一方丹座先輩はフェンスに当たって跳ね返ったボールをダイレクトに捕る。おおーすばらしい!もし殿馬くんがホームに向かっていたら、本塁上でアウトにできたかもしれない。すごいわ!丹座先輩!そして、それを見越していた(らしい)殿馬くんもすごいわ!
敵ながらあっぱれ、とあたしはベンチでひとりで興奮していた。
次は5番の山田くん。実はこのチームで一番の好打者だという話だ。
噂通り、山田くんは右中間への痛烈な当たりをかっとばし、殿馬くん、土井垣さんは難なくホームインしてしまった。あーあ。もう点が入っちゃった。打った山田くんは2塁にいる。
6番の石毛くん。ネクストサークルで岩鬼くんから何やらはっぱをかけられている。ここでピシャッとアウトを取ってチェンジにしてほしい。
審判がプレイと叫ぶ。キャプテンはボールをもてあそびながらすばやく2塁へ牽制した。山田くんは好打者だけど足は遅いみたいで、だからなのかリードを大きく取っていた。その隙をついた牽制で見事にアウト!さすがキャプテン!見るところは見ているじゃありませんか。
こうして長かった1回裏がようやくおわった。

今までの試合だと、点を取られたらすぐに取り返していた。
でも、今日の試合はちょっと違う。全然点が取れないのだ。点が取れないだけでなく、打てもしない。そんなにあの明訓のピッチャー里中くんってすごいのかな?女の子みたいに可愛い顔していて女生徒にものすごい人気。アンダースローの華麗なフォームで投げるたびに黄色い歓声がわく。・・・うーん。先輩たち、顔で損しているかも(ごめーん)。

このままのらくらやっていたのでは不利だ(何が?)と思ったのかどうかは知らないけど、4回裏山田くんの打席のとき。キャプテンはとうとう本性を現した!・・・この言い方は変かな?誤解を招くかもしれない。言い直しましょう。土佐丸のエース犬飼小次郎がその実力を初めて露にした!
その球を投げ終わったとき、甲子園球場全体が息を呑んだ。いや、大袈裟でなく、ほんと。ものすごい豪速球!ラジオでさえも一瞬シンとしたもの。あれは圧倒されたからに違いない。キャプテンがこんなすごい球を投げるなんて、全然知らなかった!
山田くんのバットは見事にまっぷたつに折れていた。あの速い球に当てただけでもすごいのかもしれない。でもバットが折れちゃ〜どうしようもない。
キャプテンが「鳴門の牙」の異名をとると聞いてピンとこなかったのだけど、この球を見たらなんとなくわかるような気がする。いや、いまだになんで「鳴門」なのかはよくわからないけど。「牙」っていうのはわかる。バットにかみつくようなボールの唸り。あの闘犬・嵐の迫力を100倍くらい増幅した感じ。あーぶったまげた!
おっと驚きのあまり、はしたない言葉を発してしまった。失礼しました〜。

うちの打者も里中くんを打てないけど、明訓のほうだってキャプテンのあのすごい球を打てる人なんていない。試合は完全に投手戦になろうとしていた。
しかし6回表。1アウトから梶田先輩がバントで出塁。苦肉の策かしら?だってサードの岩鬼くんが捕りそこなったからセーフになったようなものだし。
すると、キャプテンが次の打者大河先輩に言った。
「よし、土佐丸野球だ。行け!大河。」
・・・・いったい何が始まるの?
うちの選手はコワモテ揃いだけれど、その中では気の弱そうなお顔の大河先輩。
1塁の梶田先輩が盗塁を試みた。あたしはそっちのほうに目がいってしまったのだけど、慌てて2塁に投げる明訓の捕手山田くんに大河先輩はバットで突きをくらわせて妨害していたみたいだ。しかし山田くんはちゃんとボールを2塁に送球した。2塁手の殿馬くんがダイビングキャッチ。梶田先輩、危うし!
と、思ったら殿馬くんが「いってぇ〜!」と悲鳴をあげた。梶田先輩がスライディングしたときに、スパイクが殿馬くんの脛を擦ったのだ。あれは痛そうだ〜。なんたって弁慶の泣き所っていうくらいだから。殿馬くんはボールを落としてしまい、梶田先輩はセーフになった。
タイムがかかり、殿馬くんの足を治療する間試合は中断した。
梶田先輩はすまなそうな様子もなく、2塁上にいる。ベンチも平然としている。もしかしてわざとか?なんてえげつない連中なんだ・・・。
治療が終わってプレイ再開。
再び梶田先輩が3塁へ走る。大河先輩の送球妨害も同じだ。しかも今度は3塁手の岩鬼くんの足も狙ってスライディングする。間違いない。わざとだぁ〜。
しかし、岩鬼くんはやはり普通の人ではなかった。目には目を歯には歯を。足をスパイクで蹴られたら、相手を殴り返せ。梶田先輩の背中に思いっきりグラブを叩きつけた。
グワァという叫び声と共に、梶田先輩は動けなくなってしまった。
ベンチから東先輩と丹座先輩が走り、梶田先輩をかかえて戻ってきた。自分で歩けないくらいダメージをくらっているようだ。とりあえずベンチの奥に寝かせた。
キャプテンはかまわず選手交代を審判に告げる。でもキャプテン、うちはかっきり9人しかベンチ入りしていないんですよ!

場内アナウンスが選手の交代を告げた。「梶田くんにかわり3塁ランナー犬飼くん」
へ?と一瞬面食らったけど、ようやく思い出した。武蔵だ。武蔵がいた!
3塁スタンドがどよめき、巨漢がおもむろに立ち上がる。脱いだ学生服をグラウンドに放り投げるものだから、サードの岩鬼くんの頭上にまともにかぶさってしまった。
「わしが犬飼武蔵だ。」
武蔵はそう名乗りをあげると、ネットを軽々と飛び越えて3塁ベースに近づいた。
あちゃ〜なんて派手な登場の仕方。あたしは恥ずかしくて思わず両手で顔を覆ってしまった。武蔵、やっぱりあんたは演劇部かなにかに入ったほうがよかったんじゃない?
試合再開。
リードが大きい武蔵。里中くんはすかさず3塁へ牽制する。武蔵ったら塁に戻るどさくさに紛れて岩鬼くんに肘鉄くらわせた。なんてえげつない。えげつないというよりもせこい・・・(涙)。
牽制すると危ない。里中くんはそう思ったようだ。塁を気にせず、打者に向かった。
今度は大河先輩が打つ!武蔵がホームに向かって巨体を揺らしながら突進してくる。ホームを守る山田くんに武蔵激突!山田くんは吹っ飛んだがボールは落とさなかった。武蔵アウト!ああ、惜しい。せっかく1点入るかと思ったのに。でも、吹っ飛ばされた山田くんはそのまま動けない。ああ、またしても犠牲者がでちゃったのか?あたしは天を仰ぎたくなった。
その隙に大河先輩は3塁へ向かう。すると山田くんたら、いきなりムクッと起き上がって3塁に送球したのだ。死んだふりをしていたというわけ。いやだぁ、山田くんもうちの選手に負けないくらいえげつないわ。えげつないというより陰険だわ。あたしは心配して損したと思った。
3塁を目前にして大河先輩はボールを持った岩鬼くんにバコンと叩かれ、アウト。今度は力を加減したらしくて、大河先輩は頭の上にお星様がでているようなポワーンとした表情で自分で歩いて戻ってこれた。
せっかくのチャンスだったのに1点も取れずにチェンジ。がっかりだ。でも、こういうえげつない応酬で点を取っても気分良くないかも。
6回裏。キャプテンは相変わらず好調だ。8番打者の北さんを難なく三振にうちとった。この調子この調子。
梶田先輩がうめきながら起き上がったので、あたしは肩を貸してベンチに座らせてあげた。
「土佐丸の殺人野球はこれからだ。」と梶田先輩は物騒なことを言う。
9番ピッチャー里中くんの打席。キャプテンは何を思ったのか再びキャッチボール投法に戻った。打者としても評価が高い(らしい)里中くんはすかさず打つ。打球は武蔵のいるセンターに。武蔵!しっかり!
と思ったら武蔵の奴、トンネルした。外野の深いところにボールがてんてんと転がっていく。いやだぁもう〜。罰金もののエラーだわ。
武蔵がわざとトンネルしたことも知らずに、あたしは手に汗握ってボールの行方を追跡した。
打った里中くんが3塁に向かっている。武蔵がやっとボールに追いつき3塁に送球した。やはりあの兄にしてこの弟あり。ものすごい速球だ。3塁へ一直線に投げたボールのコースには、しかし里中くんの背中がある。明訓のベンチから山田くんの叫ぶ声が聞こえた。「危ない里中!すべれ!」
その声が聞こえたのか、里中くんが頭を低くした。ヘッドスライディングをしようとしたらしい。だが、それがまずかった。ボールは里中くんの後頭部を直撃したのだ!倒れ込んだところにちょうど3塁がありセーフになった。ボールはファウルグラウンドを転がっていく。すると里中くんは立ち上がりホームに向かってさらに走り出した。
丹座先輩がボールに追いつきホームに投げる。
明訓の山田くんが「足からすべれ!」と叫んだが、その時はすでに里中くんはホームに頭から突っ込んでいた。ホームを守っていた鬼島先輩のミットが里中くんの頭を叩く。
なんてことするの!先輩!
でも、里中くんの手の方が早く、セーフになって1点入ってしまった。追加点を取られた!
あまりの衝撃的な展開にあたしの目玉はぐるぐるめまいを起こしそう。
ホームベースに倒れ込んだまま起き上がれない里中くんを心配して、明訓ベンチから人が飛び出してきた。
知らないわよ、もう〜。
里中くんが死んじゃったらどうするのよぉ〜。やだ、殺人野球なんてぇ〜!


なるとメモ

武蔵が里中の頭をめがけて送球した件について。どうしても「わざと頭を狙う」というのはいただけなくて、ちょっと解釈を変えてみました。アニメのシーンでは武蔵が投げるとき、里中の「背番号1」が光っていたんですね。つまり武蔵は背中を狙っていたのではないか、と。頭にボールが直撃するのと背中にボールが直撃するのとではどれくらいダメージに違いがあるのでしょう?頭だと最悪死ぬし、後遺症が残る場合もある。怖いところですよね。背中なら一時的に動けなくなるくらいで大丈夫なのかな?と思ったのです。背骨が折れたらヘタすると一生後遺症に悩むことになるかもしれないけど。
いろいろと土佐丸擁護のために曲げた解釈を試みてみましたが、実は無駄な努力でして、武蔵自身が「頭を狙った」とちゃんと言っているんですよね。ああ、武蔵ったら・・・。人の努力を無にする奴だ。
まぁとりあえず、武蔵は里中の背中を狙ったのが、山田が声をかけて頭を低くしたために後頭部に命中してしまったたのだ、と。ここではそのような解釈で進めております。武蔵は偽悪者だってことで(笑)
「背中を狙った」という点では岩鬼のほうが先にやっているのですよ。ホームに向かう武蔵に向けてぶつけてやるつもりで投げたら力が入りすぎてワンバウンドになり、武蔵の股間をぬけて山田にボールが渡ったシーンがありました。あれだって、結果オーライだったけど、ヘタしたら武蔵の背中に命中していたわけですからね。武蔵ばかりが物騒な奴とは限らないのですよ(^^;)。


次回予告
いぬこ: 大変な試合になってしまった!
里中くんはなんとか投げているみたいだけど。
武蔵: かすったとはいえ、わしの球をくらっちょる。平気でいられるわけがないわい。
いぬこ: バコッ!(武蔵の後頭部をハリセンでうつ)
あんたねぇ。そんなこと言わないの!少しは反省しなさい!
武蔵: いってぇ〜〜〜ぜよ!
いぬこ: 頭の怪我をおして投げている里中くんに、甲子園球場全体が声援を送っているわ。土佐丸は完全に悪者ね(涙)
小次郎: 真剣勝負に情けは無用だ。敵の弱点は叩く!敵に弱点がなければそれを作るのが戦略というものよ。いけぇ!嵐作戦だ!
いぬこ: ・・・・キャプテン・・・・気持ちはわかるんだけどね・・・(涙)
でも、キャプテンの言うとおり。うちのチームの選手だって命張って野球をしているんだもの。
がんばれ〜里中びいきの観衆なんかに負けるなよ〜!
打って打って打ちまくって、里中なんかマウンドからひきずりおろせ〜!
梶田: なんつーことをいうんだ、この女。
鬼島: カンペキ土佐丸野球に染まったな(満足そうにうなずく)
いぬこ: 次回の「土佐丸日記」は「負けるな土佐丸!敵はスタンドにあり
丹座: 俺のアーチストプレイも見てもらおうか。

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