土佐丸日記


歩け!歩け!あたしは部長

その翌日もキャプテンたちからの連絡はなかった。明日は組み合わせ抽選会がある。学校側から誰かが行かなければならない。
あたしはまたしても学校に呼び出された。ああ、あたしの夏休み・・・(涙)
校長先生と教頭先生がいらした。・・・あれ?顧問先生は?きょろきょろ見回してみたけど、野球部顧問の先生の姿がない。あたしたちが「ボクちゃん先生」と呼んでいるうちの顧問先生は、我が1年3組の担任でもある。ついでに言うなら、この春転任してきたばかりの若い先生だ。今まで野球部の顧問を引き受けてくれる先生がいなくて、武蔵が担任の「ボクちゃん」をスカウトしたのだそうだ。それは後から聞いた話しなんだけどね。武蔵・・・あんたって・・・。結局マネージャーのあたしと同じような経緯で「ボクちゃん」は顧問を引き受けさせられたってわけね。(溜息)
ちなみに「ボクちゃん」は、かの有名な夏目漱石先生の「坊ちゃん」を愛読書にしており、坊ちゃんのような先生になろうと希望に燃えてこの土佐丸高校へやってきたのだそうだ。でも、坊ちゃんというよりは、うらなり先生のほうにイメージが近いので、あたしたちは「ボクちゃん」と呼んでいる。なんだか先生も気の毒みたい。無理矢理顧問にさせられた野球部は問題児揃いで気を遣っているみたいだし、おまけにこんな事件を起こしてくれちゃうし。
案の定、ボクちゃん先生は今回のことで神経をすり減らし、ダウンしてしまったのだそうだ。
あまりにも「らしい」ことなので、あたしはただ「はぁ」とうなずくしかなかった。少しは心配そうな様子を見せたほうがよかったのかな。でも、そんな演技ができるほど、あたしも器用じゃないしな。
でもって、校長先生のお話というのは、あたしに、この1年生のあたしに、ただのマネージャーのあたしに、
「部長代行として甲子園に行き、抽選会に出るように」
ということだったのだ!なんたることぞ!
本当ならば顧問先生が行くはずだったし、ボクちゃんがダウンしたからには校長か教頭が行くべきなのだろうけど、あいにく会議だかなにかがあって行けないと言うのだ。校長センセー、逃げないでくれ〜。
よその学校なら監督さんとかがいるんだろうけど、あいにくうちの高校に監督はいない。犬飼キャプテンが監督も兼ねているようなものだ。こういうときワンマンチームって考えものだわね〜。
校長先生と教頭先生に言われてしかたなく、あたしは甲子園に行くことになった。
野球部の部長代行として!
そりゃーね。普通の部活だったら、「部長」というのは生徒がなるものですよ。だからあたしは不思議だったんだけどね。なんで野球部の部長って先生なんだろう?なんで主将の犬飼先輩が「部長」じゃないんだろう?高校野球ってなんかへん。
まぁ、それはいいとして。
でも、他に人がいないからって、どうしてあたしが部長にならなきゃならないのよぉぉ〜(叫)

結局あたしは「野球部長」として、ひとりさみしく甲子園に向かった。
武蔵が行けばいいのに、って思ったんだけど、武蔵は「にいやんから連絡があるまで、わしは動けん」とほざく。なにか隠しているな、あいつは。
夜、大阪行きのフェリーに乗って、朝早く南港に着く。そこからは校長先生に書いてもらったメモのとおりに電車に乗って、うちの学校の宿舎であるはずの「芦田旅館」にはお昼前に着いた。
神奈川代表の学校も同宿するそうで、そちらの学校は今日到着予定なのだそうだ。その明訓高校にはかなりの人気者がいるらしくて、旅館の前には高校生らしい女の子たちがちらほらと集まっていた。
あたしが「土佐丸高校ですが・・・・」と小声で言ったら、旅館の人に「なにしとんねん、あんたんとこの選手は!」とあきれられてしまった。とほほ。なんであたしが怒られなきゃならないのよぉ(涙)

お昼すぎ、明訓の選手が到着した。表で女の子たちのキャーキャー言う声が聞こえたからすぐにわかった。あーあ。うちの学校の選手が着いても、あんなふうに迎えてくれる女の子なんていないんだろうな。かわいそうだから、あたしがサクラになってやろうかな。・・・なんてことを考えていたら、抽選会の時間になってしまった。
あたしはクラスの男の子に急遽借りてきた学生服を着て、男子生徒に化けた。ただでさえ選手が行方不明なんていう事件を起こしている学校なのに、その上いくらマネージャーでも女生徒が抽選にやってきたんじゃ目立ちすぎるもんね。とにかく人目をひかないように、という校長先生の配慮で(こんなことに頭を使わないでほしい。もっとましなアイデアはなかったんだろうか?)あたしは男装することになったのだ。うーん、宝塚でも見て研究しておくんだった。クラスで一番小さい男の子の学生服を借りたのだけど(武蔵が借りてきてくれたのだ。武蔵の学生服は着れない、大きすぎて・・・)体型をかくすために冬服を借りてきたから暑い、暑い。汗びっしょりになってそれでも正体がばれたら大変なので、帽子を深くかぶってなるべくしゃべらないようにした。
あー疲れた。
でもまぁ、なんとかばれずに抽選が終わってよかった。大会2日目、相手は北見連峰商高だ。
対戦相手も決まったというのに、うちの選手たちはどこをほっつきあるいているんだろう・・・。

夕方。あたりが薄暗くなった頃。土佐丸高校の選手9人がようやく芦田旅館に到着した。犬の嵐を先頭にぞろぞろと歩いてやってきた。ユニフォームが泥だらけ、ボロボロなのはなぜ?
出迎えた旅館の番頭さんが「いったいどこをほっつき歩いとったんや」と言うと、キャプテンが「高知から歩いてきたんだ。」と短く答えた。
へ?
歩いてきた?
じゃ、高知駅の構内に入っていったのは、電車に乗るためじゃなくて、ただ通り抜けただけ??
四国の高知から大阪まで(正確には兵庫県までか?)どうやって歩いてきたのか、あたしには想像もつかないのだけど、だったら時間がかかるはずだわ。あの様子じゃ、ただ歩いてきただけじゃなくて、何か特訓をしながらだったんだろうし。
番頭さんが中庭に嵐の休み場所を作ってくれた。キャプテンは嵐をそちらに連れていったので、顔を合わせなくてすんだのだけど、部屋に通される先輩たちがこちらにきたので、あたしはニッと笑ってVサインを作って出迎えた。
「イ、イヌコ!?なんでここにいるんだ?」
戸浦先輩が驚いて言った。その言葉に驚いたのはあたしのほうだ。なんだって戸浦先輩があたしのことを「イヌコ」なんて呼ぶのよ!そのあだ名は東京に置いてきたはずなのに。高知にきてもあたしは「イヌコ」なのか・・・ガーン!。
あたしがなぜここにいるのか事情を話したら納得したみたいだけど、それなら抽選が終わったらさっさと帰らんか、と言う。そんなぁ〜。せっかく来たんだから甲子園大会見てから帰りたいよぉ〜。校長先生もそう言ってくださったことだし。
抽選会にでてあげたんじゃない、とふくれるあたしの態度に戸浦先輩もそれ以上は言えなかったようだ。ただ、犬飼先輩が戻ってくる前に、自分の部屋(もちろん、あたし用の部屋は別にとってもらってある)に入っていろと言われた。犬飼先輩に知れたら、否応無しに帰らされてしまうだろう。まぁ、「ごくろうだったな。」の一言くらいはあるだろうけど。でも、それだけで帰るのなんて嫌だもん。あたしは素直に戸浦先輩の言葉に従った。

あたしには「野球部部長(代行)」としての任務と共に、もう1つ重大な使命が課せられていたのだ。だから、このまま帰るわけにはいかなかった。うぉっし!がんばるぞ!
あたしはその使命を果たすべく、開会式のための準備をした。
だから気づかなかった。キャプテンたちがもう夜なのに、どこかへ練習にでかけたことも。それを追って明訓の選手も外に出かけたことも。
もし知っていたら、あたしも後をつけていって、先輩たちがしているすごい練習を見ることができたのに。


なるとメモ

犬飼小次郎、堂々の登場であります。
原作のほうも凛々しいですが、アニメの小次郎もこのころはおめめパッチリでなかなかの美形。睫毛も長いし。このあとどんどん絵が崩れてくるのが残念(涙)。
さて、土佐丸の選手が芦田旅館に着いたとき、岩鬼と一悶着起こしますが、原作では岩鬼が「(嵐を)犬汁にして食ってしまえ」というのに反発して「このやろう」となるのが、アニメでは「裏の鶏小屋でひよこと一緒にしろ」といわれて「ひよこと一緒!?」と反発しているのが、どうにも不自然だったりします。TV放送で「犬汁」はまずかったのかもしれません。が、「ひよこと一緒」でどうしてあんなに怒るの?もう少し土佐丸の連中のカンに触るようなことを言わせることができなかったのでしょうか。
また原作との違いでいえば、行方不明になっている間何をしていたのか?原作ではそのあたりがはっきりとしませんでしたが、アニメでは小次郎がしっかりと「四国の高知から歩いてきた」と言っています。四国からどうやって歩いてこれたのだろう?この当時瀬戸大橋はないわよねぇ?どこかにルートがあったのでしょうか?それとも瀬戸内海は泳いで渡ったとか?この「土佐丸高校ご一行様歩け歩け甲子園ルート」のおわかりになる方がいらしたら、なるとの牙までご一報いただけると嬉しいです。
芦田旅館に着いて一服したかしないかで、練習に出かける小次郎たち。嵐の牙をかいくぐる特訓をするのは同じです。そのときの小次郎の演説が素敵。伊武さんの声なので、どうしても「ガミラス本星にヤマトを迎えるデスラー総統の演説」を思い出してしまいます。話し方が似ているんだもん。私が小次郎にハマった理由のひとつに伊武さんの声=大好きなデスラーの声、があったように思います。


次回予告
いぬこ: あ、あ、あ〜〜〜〜本日は晴天なり。
戸浦: 何をしているんだ?
いぬこ: 只今マイクのテスト中〜。
え〜土佐丸高校野球部長の犬姫衣都子です。私は今甲子園球場へ来ています。・・・・うん、もうちょっと発声練習しなきゃだめだな。
戸浦: 発声練習!?やめとけ。キャプテンに見つかる!
小次郎: 何が見つかるだと?
戸浦: ぎょえ!キャプテン!いつからそこに!
小次郎: いぬこ。抽選会はご苦労だったな。
いぬこ: あっはい!いいえ!(どっちなんだ>自分)
キャプテンたちこそ、歩いてここまでくるなんてお疲れさまでしたぁ〜。
(どうしてキャプテンまでいぬこって言うの?・・・涙)
小次郎: じゃ気をつけて帰れよ。
いぬこ: ええ!?うっそぉ〜。明日は開会式ですよ。
みんなの勇姿をレポートしなくっちゃぁ〜

次回の「土佐丸日記」は「夏の甲子園!堂々の入場行進

戸浦先輩。緊張して入場行進でころばないでね!

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