土佐丸日記


ああ行方不明に涙あり

それは突然の電話のベルから始まった。
朝寝坊を楽しんでいたあたしは、母親の「電話よ!学校から!」という声と「いつまで寝てるの!目が腐るよ!」という小言でたたき起こされた。
学校からぁ?
寝ぼけた頭で、なんか悪いことしたっけ?と考えつつ、あたしは受話器を取った。
電話は野球部の顧問の先生からだった。甲子園へ向かったはずの野球部員9名が全員行方不明だというのだ。宿泊先の芦田旅館から到着予定日を過ぎても生徒が来ないがどうしたのか、と問い合わせがあって初めてわかったらしい。
そんなこと言ったって、あたしにわかるわけないじゃん。キャプテンたちは確かに高知駅の構内に入っていったけど、その後のことは知らないもの。
知らないって言ったのに、先生はとにかく学校へ来てくれとおっしゃった。出発の時の様子を聞きたいんだって。そんなの武蔵を呼び出して聞いてほしいよ、と思いながらもしぶしぶ返事をして、あたしは制服を取り出した。あーあ、せっかくの夏休みだっていうのにぃ。

家から学校までは近い。いつもは歩いていくのだけど、今日は面倒だから自転車に乗っていった。
休み中だから正門は閉まっている。なのに、その前にでっかい男がじっと立っていた。誰だろう?武蔵?あんなでかい図体の人間ってそうはいないから最初そう思ったのだけど、制服が若干違う。
思いっきり警戒の目で横を通りすぎようとすると、その男があたしに声をかけてきた。
「女。ここの学校の生徒か?」
おんなぁ?またしても侮辱!あたしは上目遣いでそいつを睨んだ。
「だったら何よ。」
「ここの学校の生徒なら知っているたいね。『鳴門の牙』という男を。」
鳴門のきばぁ?知らない。
あっさり答えたあたしに、そいつはなおも食い下がってくる。
「そんなはずはなか。ここの野球部のエースピッチャーのはずたい。」
「ああ、それならそう言ってよ。『鳴門の牙』なんて変な名前でいうからわからないんじゃない。」
「よかよか。ところで、その男はどこにいるたい。」
「いないわよ。」
あたしは即座に答えた。だって、だからこうして貴重な休みだというのに学校に呼び出されてきたんだもん。
「いない?」
「そう。もう甲子園に向かっているから。」
男は残念そうに肩を落とした。そんなに会いたければ甲子園大会を見に行けば会えるわよ、と言ったんだけど、そいつは「それでは遅か。」とつぶやいた。
「しかたない。帰るとするたい。」
そいつはとぼとぼ帰っていった。なにあれ?と思ったけど気にせず、あたしは正門脇の通用門(ここは休み中でも開いているのだ)を通って学校内に入った。

電話で先生に言われた通り、直接校長室に向う。校長室には校長先生と(あたりまえか)教頭先生と野球部の顧問先生がいた。
さっき電話で聞かれたことと同じことを聞かれ、同じことを答える。意味ないよな〜。
先生方は行方不明になっている部員たちを心配しているというよりは、高野連にどういいわけしようか、それを心配しているように見える。なんだかキャプテンたちが可哀想になっちゃった。
私より遅れて30分くらいで犬飼武蔵が入ってきた。
「失礼しまーす。」
なんてやけに礼儀正しい。どうしちゃったの?あたしはアゼンとしてしまった。
出発時の様子を同じように武蔵にも聞く。武蔵は普段のあのふてぶてしい面構えをガラッと変え、図体がでかいわりにはファニーフェイスだねって知らない人なら思いそうな、そんなかわいい顔(おえ〜)をつくって答えた。
「ぼくわかりません。兄よりは何もきいておりませんので。」
こ、こいつって、こいつって、こういう奴なんだわ。転校以来短いつきあいとはいえ、同じクラスだし部も同じだし、それくらいはあたしにもわかる。結構食えない奴なんだ。野球部辞めて演劇部に入ったらいいのに。舞台を踏みぬかなければ、だけど。
あたしは思わずジト目になって武蔵を睨んだ。うそつき!出発の時にキャプテンから何か言われていたじゃない。ようやく思い出したよ。あれって何かこのことに関してなんじゃないだろうか?あたしには教えてくれなかったけど。でも、武蔵がここまで隠しているということは、あのことはむやみに言ってはいけないことなのかもしれない。あたしは思わず出そうだった言葉をひっこめた。
先生方はなおも顔を寄せて相談していたが、結局ありのままを報告するしかない、という結論になったようだ。ありのまま・・・つまり、学校側も「わっかりませーん」ということね。あーあ。
あたしと武蔵は帰っていいといわれ、一緒に正門を出た。あたしはね。来た時と同じように通用門から出ようとしたのよ。なのに武蔵ったら、力任せに正門を開けてしまうんだもん。まぁ、武蔵の図体じゃ、狭い通用門は通れないだろうけど。生徒が正門壊してどうするんだ、まったく。
「白状しなさい、犬飼君。あんた何か知っているはずよ。」
「知らんぜよ。」
さっきのかわいこちゃんぶりはどこへいったんだ!いつもの武蔵になって不愛想に答える。
「だって、高知駅の前でキャプテンが何か言ってたじゃない。」
武蔵はチラッとあたしを見た。あたしは、そういえば、とさっき会った巨漢のことを思い出した。
「そうそう、そういえばね。さっき変な奴がここにいたのよね。犬飼君にそっくりな体型のやつ。」
「そっくりな体型だと変な奴なのかよ。」
武蔵がわざと口を尖らせる。えーい!すねてみせてもだめだ!この衣都子さまには演技だということはお見通しだい!
「そいつがキャプテンのこと聞いてたよ。キャプテンって『鳴門の牙』っていうの?」
武蔵の表情が変わった。
「どこの奴じゃ?」
「わからないよ〜。でっかい図体して、『よかよか』とか『どこにいるたい』とか言ってたけど。」
「九州の学校じゃろうか。」
武蔵が考えている。あたしは、はっと思い当たった。
「あれって、敵情視察だったの?」
「いまごろ気づいたんか。遅いきに。」
ごめーん!あたしはベロを出して肩をすくめた。
そうか、敵情視察なんてするんだ。へぇ〜偵察されるなんて、うちの学校も結構いいせんいってるのね。
じゃあ?
「そうか!キャプテンたちもよその学校を偵察してまわっているんだ!だからこんなに時間がかかっているのね?」
武蔵は同意しようか、しらばっくれるか、迷っているようだった(と、あたしには見えたのだ)。敵情視察だとすると、ヘタに先生方には打ち明けられないな、とあたしは思った。よくわからないけど、そういうのってスパイしているってことなんじゃないの?よその学校もやっていることなら、うちの学校がやっても責められることはないかもしれないけど、あまり人聞きの良い話しじゃないもんね。
あたしは武蔵の返事など待たずに、そうかそうか、と納得して自転車に乗り
「じゃーねー」
と、家に帰ってしまった。

まさか、キャプテンたちがあんなことしているなんて思ってもみなかったんだもん。
で、まさかあたしが甲子園に行くはめになるなんて想像だにしなかった。
でもってまさかあたしがあんなことをさせられるなんて予想もしなかった!
あたしの夏休みはどうなるの?誰か教えてくれ〜


なるとメモ

この第40話に犬飼小次郎はでてきません。ただ、雲竜が四国中を探し回ったと言って「鳴門の牙」という名前がでてくる記念すべき初登場の回になります。しかも、CMを前にして背景もガラリとかわり、思いっきり思わせぶりに「鳴門の牙たい」と言う、インパクトのある登場シーン(名前だけだけど)になっています。さすがだ(笑)犬飼小次郎。
ちなみに、なるとが最初に「ドカベン」のアニメを見たのは、この40話が最初だったようです。(当時の日記より)
この回を見たことにより、こんなにも長く、こんなにも深く(?)ドカベン及び犬飼小次郎にはまるなんて。人生の岐路だったのですね(大袈裟か^^;)


次回予告
いぬこ: ♪先生、先生、それはせんせい〜♪
武蔵: ずいぶん古い歌うたっとるのう。
いぬこ: 黙れ!なんであたしが部長先生の代理で甲子園に行かなきゃならないのよ〜(涙)
武蔵: 抽選会に出るだけじゃき。
いぬこ: その抽選会が問題なのよ。あたし、男装していかなきゃならないのよぉ。こんなことなら宝塚見て研究しておくんだった。
♪あい〜それは〜かなしく〜♪
武蔵: (ボソッと)結構その気になっとる。
いぬこ: なんか言った?
武蔵: うんにゃ(首をブルンブルン)。じゃ、気をつけて。野球部長
いぬこ: 次回の「土佐丸日記」は「歩け!歩け!あたしは部長

・・・なんのこっちゃ?

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